「じゃぁ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい、アスラン。」
頬にキスをして、アスランが出て行く姿を見送る。
タリア艦長とハイネと共に、今後のミネルバについて話し合いが行われる事になった。
そのような場へは、いくら艦内の事務処理を任されているとしても顔を出すわけには行かない。
アスランが戻るまで、アーサーに頼まれた人事情報のファイリングでも続けようかと思っていた所に
見知った顔を見つけ、自然との目つきが厳しくなる。
「・・・どうしたの?」
「別に。」
相変わらず気に入らない人間の前では敬語が出てこないエースパイロット、シン・アスカ。
「そう。」
最近ではそれにも慣れてきたのか、自分に対して敬語を使わないシンを指導するのはやめたらしい。
あっさり部屋に入ろうとしたを見て、シンが慌てて声をかける。
「ちょっ、待てよ!!・・・じゃなくて、待って・・・下さい。」
「?」
初めて、と思われる敬語に驚きつつも踵を返してシンへ視線を向ける。
「あの・・・アンタ!じゃなくて、その・・・見て・・・貰いたい物が・・・」
「・・・シン、人と話をする時はキチンと目を見て話してくれる?」
床に向かって声を発するシンを見て、ため息をつきながらそう言うがシンは一向に顔を上げない。
「シン?」
「・・・」
名前を呼んでも反応がないので、はため息をつきながらシンの前まで足を進めた。
「普段の威勢の良さは何処へ行ったの。」
「ひ、人には・・・い、勢いってモンがあるんだよっ!!」
「じゃぁその勢いに乗って、何を言いたいのか言って頂戴。」
「だから、そう簡単に言えるモンじゃ・・・」
再び口篭り始めたシンを見て、は仕方なく首から提げていたIDカードを手に持ちシンの頭を叩いた。
ペシン
「っ!」
「今の貴方は民間人であるあたしより、偉い人なんでしょう?それなのに何を緊張してるの。」
「ただの民間人じゃないだろ!」
「ただの民間人よ。」
「ただの民間人が艦長の所に行ったりなんかするもんか!」
「タリア艦長に人手が足りないって言われたから、事務作業を手伝っているだけよ。」
「それだけじゃないだろ!だってアンタは過去、あのクルーゼ隊長の秘書を・・・」
そこまで口にした瞬間、目の前に立っていたの表情が一瞬にして変わり、思わずシンが言葉を飲み込んだ。
先程までの余裕に満ちた笑みは何処にもない。
こんな表情を、シンは知っている。
それは・・・戦場で家族を亡くした、自分と同じ表情
何故がそんな顔をしているのか分からず、シンは言葉を失った。
震える手で自らの体を抱きしめ落ち着こうとしている彼女にかける言葉が見つからない。
「ぁ・・・」
やがて大きく空気を肺に送り込んだ後、呼吸を整えたが先に言葉を発した。
「・・・言われたとおり、調べたって事ね。」
「あの・・・レイ、が・・・」
「・・・でもデータを見たのは事実でしょう。」
「・・・」
「・・・」
一気に場の空気が重くなる。
どちらも言葉を発しないまま、その場に佇んでいると・・・ひとつの影が近づいてきた。
「・・・シン?そんな所で何をしてるんだ?」
「ア・・・」
「アスラン!」
シンが名を呼ぶよりも先に、が踵を返してアスランの元へ駆け寄った。
驚きつつもその体を受け止め、の様子がおかしい事に気づきシンを睨みつける。
「彼女に何をした!」
「オレは別に・・・」
「何も無ければ彼女が・・・がこんな風になるはずないだろう!」
滅多に感情を露わにしない上官が、自分のためではなく他人の為に怒りをぶつけている。
それが何だか腹立たしくて、シンはキッとアスランを睨みつけるとあざ笑うかのような表情でアスラン達を指差した。
「どうせまたアンタがその人に何かしたんだろ!オレはただ有能なその人にシュミレーションのバグを見つけて貰えるよう頼みに来ただけだ!」
「・・・」
「ま、どーせアンタはオレの言う事なんか信じないだろうけどな!」
それだけ言うとシンは床を蹴ってあっという間に姿を消した。
残されたのはアスランの腕の中で小さく震えていると、そんな彼女を抱きしめているアスランだけ。
「・・・。」
「ごめ・・・アスラン、シンの言う事は本当・・・なの。」
「誤解した事はあとでオレが謝っておくよ。それより・・・」
「・・・ちょっと、昔の話をされただけ。すぐ・・・落ち着くから。」
「・・・あぁ」
戦争がつけた傷は、必ずしも目に見えるもの・・・と言うわけではない。
心に負った傷や、親しい者を失った者こそ、その傷は深く消えない。
親しかったあの人達を、どうして忘れる事が出来るだろう。
お遊びで手慣らしのつもりで書いていた話が、妙にシリアスになってしまった(苦笑)
というのも、シンがクルーゼ隊長の名前を出したらヒロインが固まっちゃったんですよ。
書いてる自分も「あ、あれ?何で固まったの?」と思ったんですが、どうやら心に傷を負っているようですね。
その傷って何だろう?と思いながら、実際私が書いてないのでヒロインの心情を推測するしかないんですが、考えられる理由は2つ?
・隊長の懐近くにいたけれど、最終的に隊長を裏切るような形でザフトを離脱してしまった
・何かで隊長の薬を発見して、その成分を知ってしまって・・・何も手を打つ事が出来ずザフトを離脱してしまった
まぁどっちにしろ、自分が何かあの人に出来たかもしれないのに、やらないまま・・・亡くしてしまった事を悔やんでるのかもしれません。
隊長の側で、あの人を尊敬していた面もあるでしょうからねぇ・・・。
それに元ザフトレッドのメンバーに起きた出来事もフラッシュバックしたのかもしれませんね。
・・・と、真面目な事を書いてみたけど、全部 推測 ってのが私らしい(笑)
何か形になって現れた時には、きっと言ってる事も書いてる事も変わってますよ、絶対(笑)